「imaginary happy」はハッピーエンドばかりのショートストーリー集。読んでほっこりなれるブログです。

袋が破けた割引パン

スーパーのパンの割引コーナー。
半額シールが貼付けられた「全粒粉食パン6枚切り」を手に取ってみると、袋の端っこが縦に裂けて、中身が剥き出しでした。

食べられる幸せと食べる幸せ

彼はスーパーで売られる全粒粉の食パン。

そもそも、ただの全粒粉パンなのに「彼」はおかしいかもしれません。

でも、主人公として語るのに「これ」はあんまりな気がするので「彼」としておきます。

彼は全粒粉パンなので、一般的な小麦粉で出来たパンより3~5割ほど高くなります。

そのせいか、このスーパーの客層にはウケが悪く、おのずと彼と同種のパンは割引コーナーに並びがち。

さて、今日の半額セールワゴンに並んだの全粒粉パンは3袋。

そのうち2袋は、今か今かと、自分を選んでくれる買い物客を待っています。

1袋は完全にあきらめて、ただそこにいるだけ。

そう、このあきらめムードの彼が主人公です。彼は最初からこうではありませんでした。

それは11時過ぎ、ある買い物客が彼を手に取った時のことです。

「なにこれ。」

と、嫌な顔をしてワゴンに戻しました。

そして、その買い物客は、彼と同じ種類の全粒粉パンに手に取って行ってしまいます。

「なんだアレ?僕だけ割引シールついてないのかな?」

その時に初めて、彼は自分が入ってる袋の端っこが15センチほど破けていることに気づきました。

いつ破けたのか全く分かリません。

彼はとてもショックです。

潔癖の国・日本では、袋が破けているだけでも、その瞬間から食べ物なのに食べ物じゃないものとして扱われます。

全粒粉パンなんて割引されてから、ようやく手頃感が出る価格なのに。

いくら手頃でも、袋が破れていたら意味がありません。

彼は袋が破れてると気づくまで、買い物客に持ち上げられるとウキウキしていましたが、もう嬉しくも何ともありません。

そこには、ただ焦燥感があるだけ。

じっと空虚に天井を見つめるマグロ状態。

そんな状態のまま、時刻は閉店の1時間前になりました。

ごそっ。

気難しそうなおじさんが彼を持ち上げ、じろじろ眺めました。

どうせ選んでくれないんでしょ。早くワゴンに戻してよ。

そんな彼の気持ちとは逆に、おじさんは彼をワゴンに戻しません。

それどころか、彼を持ったまま店員の目前まで進んでいきます。

おじさんはスーパーの店員の前に彼を持ち上げてみせました。

「店長、これ。(破れた箇所を示した)持って帰っていいですか。」

「あら、ほんとだ。田中さん、自分で破いたんじゃないでしょうね?」

「そんなことせんわっ!」

「きゃははははっ、じょーだんじょーだん」

「パワハラじゃないですか。そんなんだから嫁の貰い手がないんですよ。」

「みなさんが悲しむから残ってあげてるんです。わたしの優しさです。どうも、おつかれさまでした!」

そう言ってレジ袋を差し出しました。

「ありがとう。おつかれまでした。」

そうして、ようやく彼はレジ袋に無造作に放り込まれす。

もう捨てられると思っていた彼は、レジ袋の中で嬉しそうに揺られていました。

さて、ここはスーパーから歩いて20~30分ほどの場所にある古い一軒家。田中さんが一人暮らしをしている家です。

田中さんは部屋に入るなり破顔一笑。まるで別人。

「ただいま!次郎いい子にしてたか~っ?」

玄関先では、白い中型犬がもの尻尾がちぎれんばかりの勢いで田中さんをお出迎え。

そして、田中さんの待つレジ袋をキラキラした目で見ています。

「お?匂いで分かったか!次郎は頭いいなぁ~。良い子だなぁ~。 今日は出血大サービス。なんなら6枚食っていいからな。」

「ワン!」 田中さんは、2~3センチの大きさにパンをちぎって、次郎に沢山食べさせました。

いつもなら、少ししかもらえない全粒粉パン。

何故か今日の田中さんはいくつでも食べさせてくれます。

ガフガフ鼻を鳴らしながら食べる次郎。

その様子を眺める愛嬉しそうな田中さん。

こうして全粒粉パンは、田中さんと次郎をとっても幸せにすることができました。