「imaginary happy」はハッピーエンドばかりのショートストーリー集。読んでほっこりなれるブログです。

かたっぽだけの靴

ある日散歩をしていると、駐車場の入り口に片っぽだけのスニーカーが置かれていました。

間接的な再会

明美さんは50歳。ホテルの清掃員の仕事をしています。

駐車場のごみを拾いに行くと、そこには片方だけのスニーカーがありました。

スニーカーを見た時、明美さんは思わずクスッと笑ってしまいました。

明美さんが20代のころ、それはそれはイケメンで素敵な彼氏「内山君」がいました。

芸能人に例えて言うなら坂口健太郎?

えてして思い出は美化されがちですが、そこは大目に見てください。

その内山君は、つい最近自動車免許を取って中古車を買いました。

毎週洗車して、車内もピカピカ。明美さんは、異常に車を磨き上げる内山君に心から呆れていました。

「ばっかじゃないの?」

内山君は全く気にしません。

「俺の車、土足禁止だから。」

そう言って、いつも明美さんに靴を脱ぐように命令していたのです。

いつもいつも、車を乗り降りする度に靴を脱がないといけないことが、明美さんにとって面倒臭い以外の何物でもありませんでした。

駐車場に転がった片方のスニーカーは、そんな明美さんの記憶をよみがらせました。

内山君元気かな?

今でも車を土禁にしてたりして。笑

いつもなら、駐車場のスニーカーは落とし物として回収します。

でも、今日は回収しないことにしました。

自分でも理由はよく分かりません。ただなんとなく、その方が良いような気がしたんです。

ただ何となく、ね。

「もー、ばっかじゃないの?」

信号待ちの車内で若い夫婦が喧嘩をしています。

「仕方ないだろう。わざと忘れたんじゃねぇし。」

「自分の車を買えばいいのよ!だいたい、車で靴を脱ぐとかありえないし。駐車場で靴を脱がなければ、わざわざ取りに戻るなんてこともないのに!」

「仕方ないだろう、車なんて毎日乗らないのに、買うなんて勿体ないだろ。そもそも、土禁の件は親父に文句言えよ!」

「もう、戻ったって清掃の人に捨てられてるわよ。」

「あのスニーカー高かったんだよ!」

しばらくして駐車場に到着しました。

すると、料金精算所のフェンスの上に、子供のいたずらのように片方だけのスニーカーが置かれています。

「おー、あったぞ、あったぞ!」

「早く帰ろ!夕飯8時過ぎちゃうよ。」

「はいはい。」

片方だけのスニーカーを回収すると、車はすぐに走り始めました。